2010/01/05
コンプライアンス調査と第3者委員会(監査役、弁護士と会計士の見方の違い)
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
さて、今年はコンプライアンスの論点から始めたいと思います。
「第3者組織」とは
上場会社において会計不正事件が発生した場合に、事実調査や原因究明を目的として社外有識者による第三者委員会が設置されることが最近は多くなりました。これは別に恒常的な会社の組織ではありません。臨時のプロジェクトチームです。もちろんこれは上場会社に限る話しではありません。非上場会社でも、監査役に対し調査請求がされる場合もあり、その場合に弁護士や会計士の先生の助力を仰ぐことは多いでしょう。会社の顧問弁護士の先生は、会社執行部の立場ですので、こうした不正事件の調査には部外者として参加することは難しいでしょう。もっとも監査役に弁護士や会計士の先生が就任している場合は別論です。
弁護士の意見と会計士の意見の違い
このような場合、実務出身の監査役と弁護士、会計士の見方が相当異なる場合が多いのが実情です。たとえば、会計士の先生曰く
「第三者委員会の委員長は○○弁護士だったんですけど、不正の事実を特定するのに、ちょこっと証拠を集めて『これでよし!』ってことでして。なんでもっといろんな証拠を集めないのだろうか?って、ホントにこれで大丈夫なのかって、ヒヤヒヤしましたよ。弁護士さんて、みなさんあんな感じで心配にならないのでしょうかね?」
というわけです。このような経験はかなり多くの場合に聞かれます。ただ、その「食い違い」がどのような問題に関するものなのか、またどうして食い違いが発生するのか、その解消方法はどうするのか、といったあたりに具体的に踏み込んで考える論考はあまり多くないようです。
この方面での実務に詳しいある弁護士の先生は、「不正」に対するアプローチの違いによるところが大きいのではないでしょうか、との意見です。つまり「不正」を事実とみるのか、可能性とみるのか、ということです。
弁護士の見方
弁護士は裁判を前提として事実を見る習性をもっており、「不正」は立証すべき事実であり、仮説を立てて、その仮説が正しいことを証拠によって証明することに尽力します。「不正がないこと」の証明という概念は原則としてありえません。
会計士の見方
会計士は(とくに会計監査に従事する会計士さんは)投資家に対して有用な情報を提供するに足りる程度の真実、つまり相対的真実主義を基礎としております。そこで「不正」を認定するのは事実を確定するためではなく、財務報告に重大な虚偽記載が含まれている「可能性」を探ることが目的となります。。つまりそこでは事実を確定することよりも、不正が行われた可能性が低いことを証憑をもって保証するこそ重要な業務になるものと思われます。したがって「不正がないことの可能性」を探る証明・・・という概念が存在するわけです。
見方(アプローチのしかた)の違い
そこで両者の思考過程に差が生じることになります。「不正」を事実と捉える弁護士は、その仮説を真実であると説得するだけの証拠が必要になりますから、証拠価値を問題とします。いっぽう、「不正」を財務報告に重要な虚偽記載のある可能性と捉える会計士は、投資家のために一定レベルの真実性を保証する、という観点から、たとえば「不正がないことの70%の可能性」に執着される傾向があります。その70%の保証レベルに到達するためには「1 ○○がないこと」「2 △△がないこと」「3 ××が存在すること」といったテーマを決めて、この1から3がそろわない限りは「不正がないとは言えない」という結論に導かれます。打ち消しの積み重ねによって、ある程度の心証を固める思考過程であれば、同じ証拠を弁護士と会計士が評価しても、弁護士にとっては「証拠価値が高いのでこれで足りる」と思われるものでも、会計士にとっては不正がないことに関する心証形成のための一つの証憑にすぎない、といった結果となってしまうように思われます。
どちらが正しいのか
このように弁護士の先生も会計士の先生も、そのどちらも職業としてのプロフェッションの立場から真摯に習い性となったアプローチ手法をとるので、弁護士の先生にとっては十分とおもうことでも会計士の先生からは不十分という評価がされることになるのだと思います。実務家や弁護士の立場からすると、何もそこまで見る必要はないのではないか、とおもわれる場合にも会計士の先生には不満が残るようではあります。しかしそれはどちらが正しいという問題ではないでしょう。それぞれの立場でものをいうことが期待されているのです。