2009/04/29
リーダーの「役割」
リーダーの「役割」
‘es’エス（「Das Experiment」）というドイツ映画
この映画は、1971年に米国スタンフォード大学で実際に行われた心理学実験「スタンフォード監獄実験」を元にしている2001年度ヨーロッパ賞受賞作です。
エスとは、自我という意味ですが、これはなんと邦題であって、原題はドイツ語でDas Experimentつまり「実験」といいます。
内容は？といえば、新聞広告で募集されたごく普通の男たちがドイツの大学の心理学・医学教室地下に設定された擬似監獄で囚人と看守の役割を2週間演じ続ける実験が行われます。主人公は、この実験を知って取材と4000マルクの報酬目当てで被験者に応募します。もちろん実験ですから、全部「やらせ」ですね。本物ではありません。そして、被験者21人のうち11人を看守役10人を受刑者役にグループ分けしそれぞれの「役割」を医学部地下の擬似刑務所で演じさせたところ、時間がたつにつれ看守役の被験者はより看守らしく、受刑者役の被験者はより受刑者らしい行動をとるようになるということが証明されたのです。
「スタンフォード監獄実験」とは。
この映画は、この「スタンフォード監獄実験」をドイツを舞台に再現したものです。その結果、どうなったのでしょう？最初は両サイドとも何の問題もなく穏やかな雰囲気ですごすのですが、その後些細ないざこざから端を発した看守役側と囚人役側の対立は徐々に深まり混迷します。そして、いくらも時間のたたないうちに、あらかじめ約束で禁止されている暴力行為が始まってしまいます。そして、この実験は最終的に2名の死者を含む多数の死傷者を出す惨劇に変貌してゆくという、禁断の実験の一部始終を描いたサイコ・スリラードラマなのです。
「役割」は人をこんなにも変える
このスタンフォード実験結果としては、「権力への服従」と「非個人化現象」があげられています。すなわち強い権力を与えられた人間とそうでない人間が狭い空間で一緒にいると次第に理性の歯止めがきかなくなり、暴走してしまうが、その現象は元々の性格とは関係なく、役割を与えられただけでそのような状態に陥ってしまうということがわかったのです。つまり「状況の力」が「人格」を支配する・・・・・実験に参加するのは変質者でも凶悪犯でもない、登場人物全員が貴方の隣人かもしれない一般人です。だからこそこの映画で彼らが見せる変貌が「凄い」の一言。私たちは家族、社会、会社、家庭で常に何らかの「役割」を演じています。父親、母親、子供、恋人、社長、役員、従業員、先生、生徒、男性、女性・・・私たちはいつも「現実」においてRPG(ロールプレイングゲーム)やシミュレーションゲームのプレーヤーであり、そうした「役割」を受け入れるばかりか、その「役割」を介して自分たちの人格を形作ってさえいるのです。本物の看守よりも看守らしくなる看守役、そして本物の囚人役よりも囚人らしくなる囚人役・・・「役割」が人格に与える凄まじい影響力を実験は明らかにしています。
リーダーは作られる
リーダーという「役割」も同じです。リーダーに相応しくない人間が何かの拍子にその役割を演じることになったとき、ある意味「惨劇」が待ってます。だからこそリーダーの資質の議論が意味を持ってきます。社長の役割、役員の役割・・・・リーダーは作られるのです。「役割」というペルソナ（仮面）の下の人間性や人格こそがリーダーシップ論の本質です。それが本当の真実なのです。
リーダーのポジティブな側面、その役割を演じることができて、組織に良い影響を与えられる人格者、スキルや能力をもち、協調性をもつ人こそ、求められる真のリーダーでしょう。マネージャーの中からこのようなリーダーの資格者を発見し、その「役割」につけることが、経営者にとって最も大事なことです。選択を間違えないことです。資質を見抜くことが大切です。間違っても、自分の役割と本物の自分とを混同してしまうような錯覚をもちやすいヒトは、リーダーとしての資格はないのです。
