2009/09/26
「HOYA」ペンタックスの買収について
M&Aの話で、毎日の日経新聞は賑わっています。M&Aはおよそ「うまく行く」ことを期待して発進するプロジェクトで、失敗することは、念頭においていないといっていいでしょう。しかし、失敗するとどうなるか、も考えないといけないのでは、と思います。
M&Aの手続の流れの中では、相手対象企業と自社社内経営陣・エキスパートが、つまり社内人のほかに、コンサルや会計事務所、法律事務所など第三者がDD(デューディリジェンス:資産査定)に関係し、判断材料を提供してくれます。問題は、こういう第三者がもっともらしく美しくいろいろの提言や数字、見込みを横から見せてくれるので、誰が真の決定権者か判断者か責任者か、わからなくなることがあります。なぜ、M&Aをするのか、それをすることがどういうロジックで有利なのか、がキチンと説明ついているかどうか、よくわからないケースが多いのではないかと思われます。
たとえば、今や旧聞に属しますが、2007年から2008年にかけて世上をにぎわしたペンタックスとHOYAについても、私にはいろいろの迷走の原因は、このような説明が自分にもキチンとついていなかったことが理由ではないかという疑いを持ちました。
最初2007年12月に翌年10月に合併するという基本合意を発表しましたが、その後TOBに変更、合併断念。この間、本当は、どうやらchange of controlつまり大手社が研究開発レベルから関与しているためにHOYAには売るがペンタックスにはレンズを売らないという契約になっていてそれが理由で断念することになったという「落ち」が日経コラムに書いてありました。
しかし、そういうことは経営陣なら自社レンズの置かれている状況ぐらいわかっているはずだったのではと思います。発表前にどうしてこんな事情が判明しないのだろう、これほどの重要事項は注意深い経営者ならすぐわかるはずの重大障害だとさえ思われますが、あくまで推測ですが、誰かがM&Aの対象にペンタックスがいいですよ、といったのを経営者が丸呑みしたのじゃないか?と思われます。
HOYAにとってみると、買付額は、770円で127,786,000株だから総額980億円以上の買い物だが、ペンタックスの土地含み益と負債修正を加えた修正純資産は、420億円程度である。これはどういうことかというと、980億円から修正後純資420億を差し引いた値つまり560億円が「ノレン代」となるわけです。すなわち、企業の事業価値よりもノレン代のほうが多いということになります!もしスーパーで買い物をしているときに420円のものを980円で買ったらそれこそ大騒ぎになるのに、桁が億になると、あまり注目されることもなくなるのかもしれません。
この場合、HOYAとペンタックスの将来営業利益が今のままの予測だとすると、どうなるのでしょう。ノレン代は最高20年償却まで容認ということですが、5年にするのか10年償却にするのかによって全く変わってきます。
どちらにするのかは重大経営問題です。買った企業の企業価値と同じくらいの大きなノレン代を5年償却すると、来期は70億の純益のあるペンタックスを買って大きく潤うはずが、不思議なことに、ノレン代償却のために償却後利益は、むしろ元のHOYAの利益よりも小さいものにしかならないことが判明します。
公表資料の試算では3年間はペンタックス買収しなかったほうが営業利益が多くなるという、相乗効果があるはずです。2007年3月期で実績1130億の利益が2009年3月期予測で1050億の利益になる。むしろ、減ってしまうというわけです。それ以降にどう現れるのか企業戦略をアナログとデジタルできちんと説明することが必要でしょう。償却5年か10年か20年か期間はどうだったのでしょうか?実は10年定額償却の予定だったようです。
もし万が一、最後にペンタックスがそれほどの実績を生み出さなかったときは、あきらめて、ノレン代は残酷にも直ちに100%「減損損失」計上できます。実際はどうだったのでしょうか?
ところが、2008年度決算では、定額償却予定だったのれん代を一挙に前倒しして費用計上しました(231億円の特別損失)。のれん代に限れば将来の償却負担は減りますね。2009年7月~9月期を見てみますと、部門損益が均衡し、実に7四半期ぶりに営業赤字から脱却できそうです。(2009年9月10日日経)
HOYAは吸収合併後ペンタックスを一つの事業部門としてまとめました(内視鏡事業とデジタルカメラ事業の二つ)。そのうち特にデジタルカメラ事業の赤字が大きかったのです。そこで、デジカメの生産体制を脱日本化し東南アジアに移転集約し、日本閣内での生産から撤退。営業部隊さえ縮小。その結果ペンタックス部門の従業員数は前年同期比28%減の4717人となりました。とはいえ、低収益のペンタックス部門は依然HOYA全体の利益率を押し下げていることからしても、更に一段のリストラが迫られる事態となっています。